静岡県東伊豆町の「天城の次郎杉」 (2000.5、小森さん)


 小森さんがバイクで天城越えをした際に、太郎杉と次郎杉を回って、 写真を撮っておくって下さった。次郎杉は「シラヌタ(不知沼)の大杉」とも言われ、 樹高45m、根回り12m、目通し幹周り9mで、樹齢は1000年以上と推定されている。
 伊豆急行片瀬白田駅で降りて、白田川上流の「伊豆天城ハイランド」方面に ハイキングをする事になる。別荘地帯から、「シラヌタの池」方向に向かって 登り、林道を進むと「シラヌタの大杉」の道標がある。少し難しい行程である。 最下段は小森さんのバイク紀行です。




 舗装路とラフとの入り交じった道を進むうちに「シラヌタの大杉」 という看板の所にやってきた。「不知沼」と書いて「シラヌタ」と読む。 別名「天城の次郎杉」と呼ばれ樹齢は1000年以上の古木なのだ。 林道から逸れてバイクでは行けない道になり徒歩で進むが 普段からの運動不足が祟り途中何度も息を切らして立ち止まってしまう。
 清流に架かる橋の上手を見遣ると山葵田が広がっており青々とした山葵が 葉を広げていた。個人的には根をすり下ろした薬味としての山葵より 葉と茎を熱湯に晒して鰹節をふりかけ醤油で食べるお浸しの方が好きだ。 そんな山葵田を横目に若い杉木立の間を抜け少し山の斜面になったところに 天城次郎殿は鎮座していた。樹高45m根回り12m目通し9mという 1世紀以上生きてきた巨木なのだが樹勢の衰えは目に見えて顕かだった。
 葉は全体の上部に集まっているが下半分は樹皮も剥がれて老いさらばえて見える。 面白いのは根本から生えた細い幹が本体の幹に連理しており 複雑に絡まって突き出した枝が何か得体の知れない生き物のように見える。 敢えて言うなら素戔嗚尊に飲まされた酒に酔った八岐大蛇が その身をくねらせているかのようだ。天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ) を探したがどうやら連理している若い真っ直ぐな幹がそう見える。
 それにしてもこの杉の古木の周囲に人の手が入り過ぎている。入って来易いように道が造られ周りの木が切り開かれ丁寧にベンチやテーブルまで設えてある。 杉の古木にしてみれば大きなお世話だろう。辺りを見回すと杉木立の中に かなりの大きさの枝振りを誇るケヤキやブナが見える。 それぞれが三百年から五百年ほどの立派な大木たちである。
 以前から持論で唱えているのだがこのような山中に在る巨木は その木独自で生きてきたのではない。森には森の知恵がありいろいろな木々が お互いに助け合って生きてきたのだ。この杉を将棋の王将に例えるならば 周囲にあるケヤキやブナはそれぞれが金銀飛車角の役割を持って その地に根を張り枝を張り葉を茂らせて風雨という敵から王将を守ってきた のである。中には強風で倒れた木も在るだろう。 それが時の経過で朽ち果てると共に新たに育つ木々の糧となり やがて桂馬や香車、成金となって王将たる杉の守りを引き継いできた。 正に山の斜面を将棋の盤上に見立てると王将の杉を中心に 金銀飛車角のケヤキやブナが鉄壁の布陣を敷いているのが見て取れる。
 しかしながら今は人間という敵が攻め込んで王将の存在を危うくしているのだ。 些か天城次郎殿に同情の念を抱きつつその場を立ち去ることにしたが、 営林署の立て札に「一切の樹木の伐採を禁ずる」と在るのをみて少し安心した。

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