小国町に来た最も大きな目的は、町の誇る「阿弥陀杉」を見ることであった。
タクシーに乗って「阿弥陀杉までお願いします」というと、「阿弥陀杉ですか、
あれは素晴らしい木でした」と何だか回顧めいたことを言う。杉の話をすると
どうも歯切れが悪い。車が次第にその場所に近づくと、運転手は寡黙になる。
....ついに彼が口を開いて、「一昨年大きな台風が来たでしょう」という。
「エッ、大分やられましたか?」と聞くとまた黙る。ややあって「その数年前にも
大きな台風がありました。」という。「独立木ですから被害に遭いやすかったでしょう。」、「....」 下車して杉を見た。これはひどい。京都から木を見に来た私に、運転手は慰めの言葉も無かったのであろう。かえって気の毒になった。写真の通りである。以前に大浦さんから送っていただいた写真と比べると、1/5以下になってしまった。残っているのは赤く囲んだ所だけである。町の人々の無念さが伝わってくる。昨年の台風は小国町を直撃し 多くの巨木が影響を受けたが、特に先年の台風で1/3を失っていた阿弥陀杉は 一気にほぼ壊滅に近い打撃を受けた。あの偉容を取り戻すには、数百年を要することであろう。 元の木は、樹高38m、幹周り11.6m、樹齢は約1000年と言われ、昭和9年に国の天然記念物に指定されている。この木は、明治35年に人手に渡って伐採されようとしたのを、当時の北小国・南小国町の人たちが義捐金を募って守ったという話があり、まさに町のシンボルであった。 |